《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 何も知らない無垢なスズラン。
 だからこそ、その真っさらで純白な生地を自身の思い通りに染めていく……。そんな感覚が堪らない満悦感を生み出す。
 口づけした後、その先をねだる様な表情はラインアーサの理性をぞくりと逆撫でる。幼さの中に見え隠れする色気。あの顔を知ってしまってから身勝手な感情が芽生えた。そうした想いは会う度に増幅してゆく。スズランを誰の目も届かない所へ閉じ込めて、全てを独り占めしてしまいたい程に。

「ああ、もう! 駄目だ…。スズランは物じゃあないんだ。分かってる」

 これから控えている公務の為、ラインアーサは思い切り左右に頭を降り気持ちを引き締めた。


「───父上。戻ったよ」

「アーサ! 今日も彼女の所に足を運んでいたのかい? 甲斐甲斐しいね」

「……ん、まあ」

「しかし彼女は、なかなか王宮へ来てはくれないそうだね。会えないならば私の方から直接会いに行ってしまおうかな?」

「へ? そ、 それはまずいんじゃあ…。国王が城下町の酒場(バル)へ個人的に訪問だなんて騒ぎになるだろ?」

「うーん、そうかな?」

「そうだよ!」

「そうか。久しぶりにあの酒場(バル)で美味しい酒をご馳走になろうかと思ったのに残念だな」
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