《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「どうしてそんな事言うんだよ。やっぱり俺じゃあ嫌?」

「っそんな事ない! そうじゃなくって……だって、わたしはただの平民で、その……子供っぽくて綺麗でもないし、全く何の取得が無いもの。嫌なの…、ぜんぜんあなたの役に立てないなんて、嫌」

 広間から差し込む光を背にしてスズランが俯く。
 そうやって露台(テラス)の手摺の前に佇むその姿さえも愛おしいのに。

「この前も言っただろう? スズランは俺に力をくれるんだって。スズランの笑顔があったから今の俺が居るんだ。だからそんな顔しないで」

「わたしの、笑顔? ねえ。ライ…っあ、あなたはいつからわたしの事を知っているの? ずっと昔っていつ?」

 真剣な眼差しで見つめられるが、照れくさくなりスズランの鼻の頭を人差し指でつんとつついた。

「教えてあげない」

「な、なんで〜?」

「じゃあもうその事で悩まない? スズランは綺麗だよ。俺の一番だ」

 本気で心から想っている。強い気持ちを込めて見つめ返すも、煌めく淡い虹色の瞳に魅入られてしまいそうだ。

「…っ」

「スズラン……」

「アーサ! そろそろ晩餐会(バンケーテ)もお開きだよ!」

 今にも唇が重なる寸前という所でライオネルによる邪魔が入った。

「っ…父上」

「おや、お邪魔だったかな? 申し訳ない!」

 可愛らしい仕草で小さく舌を出すライオネル。
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