《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「ん? 俺が?」

「うん」

「何だよそれ…」

 気恥しい気持ちのままスズランの手を取り、ゆっくりと歩く。庭園を突き通って何時もの横庭の石橋までやって来た。

「……国王様も優しくてとても気さくな方なんだなぁって。あなたとおんなじ、深い青色の瞳。吸い込まれそうな綺麗な色。やっぱり親子ってすごく似るんだね。マスターとセィシェルもすごく似てるもん」

「そうだな、姉上はもっと父上に似てる。今度紹介するよ」

「あっ、お姉さんってイリア様! な、なんだか緊張しちゃう……あの、前にいただいたお菓子、とってもおいしくてずっとお礼を言いたかったの」

「覚えててくれたのか?」

「あの日。あなたにお菓子をもらった時、すごく嬉しかったから」

「……スズラン」

「なあに?」

 不意に立ち止まりその名を呼ぶと、少し緊張気味だが可愛らしく顔を覗き込んでくる。

「ねえ、さっきからどうして俺の名前呼んでくれないの?」

「っ…だって」

「だって?」

「ご、ごめんなさい。でもあなたのこと、何て呼べばいいのかわからないの」

「今まで通り、ライアでいい…。そう呼んで欲しい」

 そう言ったものの返事を待てず、性急にスズランを抱きしめた。
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