《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 もうスズランにあの名で呼んでもらえないのかと考えたら急に寂しさの様なものが湧き上がってきた。想いのあまり腕に力がこもる。

「待って…っ苦しいよ…。ねえ」

「っ…スズラン」

「んん……っ…ラ、ライア…っ!」

「やっと呼んだな」

「むぅぅ、意地悪!」

 ラインアーサは腕の力を弱め、してやったりと口角を持ち上げた。どうしてかちょっとした意地悪をしたくなってしまうのはもはや悪い癖だ。スズランはするりと腕から抜け出して一歩先を歩き出す。やや頬を膨らませどうやら照れている様子だ。

「スズランが意地張るからだろ」

「だって…。そう呼んでいいかわからなくなったんだもん」

「俺は……そう呼んでくれると嬉しいんだ」

「でもみんなアーサ王子って呼んでる…」

「……スズラン。ライアって呼名に覚えはないか? 全く?」

「……」

 そう問うとスズランは真剣に頭を悩ませながら立ち止まってしまった。

「いや。覚えていないなら良いんだ」

「待って、わたし…」

「ほら、もう着いたし俺はここで…」

 早々に酒場(バル)の裏庭に到着してしまった。名残惜しいが部屋の階段下へとスズランを促す。するとスズランはめいっぱい眉を下げて寂しそうに呟いた。

「……ライア…っ」
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