《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「ん? どうした?」

「えっと…、あのね。王宮とここって結構近いんだね」

「ああ、この森を通るとすごい近道だろ? それに父上の強い結界が張ってあるから安全だし」

「ねえ…。もう、行っちゃうの?」

 潤んだ瞳で、上目遣いで───。
 もう少し一緒に居たい。互いに同じ気持ちなのだろう。だが気持ちをぐっと抑え込み、笑顔で答える。

「明日また店で」

「…うん。今日は素敵な晩餐会(バンケーテ)に呼んでくれてありがとう……おやすみなさい」

「こちらこそ。凄く嬉しかった。来てくれてありがとう! ……おやすみスズラン」

 優しくスズランの頭を撫でる。これ以上触れると歯止めが効かなくなりそうだ。しかし手を引こうとした瞬間、小さな両手により阻止されてしまった。

「スズラン?」

「……さみしくないおまじない、して」

「…っ!」

「おねがい…っ…ひゃぁ!?」

「……馬鹿」

 堪らずスズランの身体を横抱きにすると一気に階段を駆け上った。そのまま部屋に入るとベッドの上にそっと彼女を下ろし、真っ直ぐ瞳を見つめる。煌めく瞳に警戒心の色は無い。

「ライア…? 突然どうし…っんん」

「……全く…っ…人の、気も知らないで…」

「……あ、っ…ん」
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