《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~

夢の続きを

 風が森の樹々を騒がせながら吹き抜ける。まるでラインアーサの心境を表すかの様だ。何故こんなに心がざわつくのだろう。

「……えっと。わたし、…きゃ!」

 気が付くとラインアーサはその女性の肩を掴んでいた。鈴を転がす様な透き通った声。白くほっそりとした柔らかな感触と僅かに花の様な香りがし、ラインアーサはくらりとした。

「君の、名……」

 名前を聞こうとして、思い留まる。自ら名乗っても居ないのに、突然女性に名前を聞くのは失礼だ。

「あの……あなたはここの警備の方、ですよね?」

 どうやらマント姿のラインアーサを見て、王宮の警備隊と勘違いしたらしい。まあ。とりあえずそういう事にしておこう。

「あ、ああ…」

「ここに来たことは謝ります。でも、ただ景色を眺めていただけなんです。わたし、この場所が好きで……」

 この場所が、好き? 何故?
 先ほどから疑問ばかり浮かんでくる。ラインアーサはただただ目の前にいる女性を見つめていた。

「……眺めるだけなら、この国には他にもっと良い所があるはずだが」

 風樹(ふうじゅ)の都は標高が高い為、坂の多い街だ。眺めの良い所など街の至る所にある。
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