《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「……違う。俺は…」

 いや、そうではない。スズランに惹かれている理由はそれだけではない筈だ。ラインアーサは左右に思い切り頭を振るとその頁に栞を挟み、一度書物を閉じた。


 ───王宮 謁見の間にて。
 少々照れながらも朗らかに笑顔を浮かべ、長い列の相手をする。ラインアーサは自身に向けられた祝の言葉に深く感謝の意を述べ、一人一人と握手を交わしていた。

「アーサ様!! 本日は誠におめでとうございます!」

「御生誕の日を心よりお祝い申しあげます、アーサ殿下。シュサイラスアの平和とローゼン一族がこれからも永久に続きますようお祈りしております」

「これからもシュサイラスアの民を温かく見守っていてください。殿下のご健康心よりお祈りしておりま漢字(かんじ)漢字(かんじ)す。謹んで御誕生日のお祝いを申し上げます!」

 本日、収穫祭(リコルト・フェスト)と並行してラインアーサの生誕を祝う為、王宮の謁見の間が解放されている。王国に仕える重役、有権者や城下の街の同業組合(グレミオ)長など、数多くの関係者が謁見の間へと訪れていた。皆それぞれ祝の言葉と品を献上する為、ラインアーサの前に長い列を作っているのだ。何度経験しても大勢に祝われるのはどうにも慣れない。気恥ずかしさをはぐらかしつつ、にこやかな笑顔で一人一人に礼を尽くした。
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