《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 やはりシュサイラスアへ帰国後、あからさまに症状が悪化している。何か原因があるのだろうかと思案してしまう。
 ともあれ、エルベルトとジュストベル。多忙だが、昔から趣味が合う仲の良い二人の休息を奪ってしまったな、と内心謝りながら姉の待つ食堂に向かった。

「そう言えば何で食堂なんだ? 最近調子良さそうだけど体調は大丈夫なのかな?」

 姉の体調の心配と小さな疑問を抱えつつ歩みを勧めてゆくと目的地に近づくにつれ何やら良い香りが漂って来た。食堂の大きな扉は珍しく閉じられている。いつもは開け放たれているのだが、と更に疑問が浮かぶ。
 控えめに扉を叩くと中からどうぞ、と姉の明るい声が返ってきた。扉を開くと同時にふわりと甘い香りが鼻腔を擽った。目の前には色とりどりの焼き菓子がずらりと並び、それはどれもラインアーサの好物ばかりだ。

「や、焼き菓子が……たくさん!! ……姉上! この焼き菓子ってもしかして…」

「そうなの!! 今日はアーサの誕生日でしょう? 朝早くからリーナと二人で用意したの」

「アーサ様、おめでとうございます!」

 食台(テーブル)に山と並ぶ焼き菓子の影からイリアーナとリーナが顔を出した。
 シュサイラスアに居なかった十一年間、この優しい姉の笑顔を忘れた事は一度もなかった。
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