《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 冷静になれ、と自らを叱咤(しった)しラインアーサは小さく息を()く。
 この女性はあの少女ではない。あの日の状況と似た要素が重なったからといって、思い出と今起こっているただの偶然を混同させてはいけない───。そう自分に言い聞かせた。あの少女はとても幼かった。十一年たった今でも、まだ十四、五歳の少女だろう。
 目の前にいる女性はどう見ても十八、九歳で成人している様に見える。高めの身長にすらりとした手足。そこそこ露出のある服装に色気も少々。そんな馬鹿らしい考えまで浮かんでくる始末だ。
 ラインアーサは(ほの)かな期待を振り切ろうと、無理矢理話題を変えた。

「今日は祝祭(フェスト)初日だ。君は街に行かなかったのか?」

「あ、お店の準備があって……それにわたし、たぶんこの国の出身じゃないせいか、賑やかなのはあんまり得意じゃなくって」

「店…?」

 まさか、この女性はそういった店で働いているのだろうか?  と無駄に詮索してしまいそうになる。しかし喋り出すと見た目以上の幼さに気が抜けた。

「そうなの、この祝祭(フェスト)のおかげで今日からお客様の(はい)りが倍になるって…! だから準備が大変で、今ここに息抜きに来てたとこだったの」
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