《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 暫くそうしている間にすっかり夜の帳がおり、辺りはいっそう煌めきだす。南瓜のランタンが妖美な光を放ち普段とは別世界の夜の街。
 祭り客の喧騒の中でそっと愛しい名前を呼んだ。

「───スズラン」

「……ごめんなさい突然泣いたりして」

「相変わらずの泣き虫。大丈夫だよ、ほら。そろそろ戻ろうか」

「うん」

 漸く泣き止んだスズランをもう一度強く抱きしめ、とても小さな声で囁く。

「……不安にさせてごめん…」

「んん…、ライアっ…今なんて言ったの?」

「‪さあ、本格的に冷える前に行こう」

「……あ、まって」

「ん。ほら」

 再びスズランの手をしっかりと握り、人混みの中を縫って歩く。
 多種多様な屋台、大道芸や音楽隊の奏でる陽気で情熱的な音楽、音楽に合わせて華麗に舞う踊り子たち。祭りは最終日の後夜祭に向けて徐々に盛り上がってゆく。先程から少し元気の無いスズランとは対照的だ。

「……今日は街に連れ出してくれてありがとう」

「どういたしまして。少しでも祭りの気分を味わえた?」

「うん」

「なら良かった…」

 どうにも途切れがちな会話だがなんとか酒場(バル)まで戻ってきた。そのまま裏庭へと回り込む。
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