《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「ううん、全くわからないの」

「そうか。もしかしてスズランの家族が迎えを寄越したって事も可能性としてあるのかと思ったけど、あんなに荒々しい迎えはおかしいよな」

 スズランの両手を強く握る。

 メルティオールはスズランを〝鍵〟だと言っていた。もしそれがスズランの身を危ぶむものなら全力で守りたいのだ。
 本当に迎えに来たのなら今までスズランを男手一つで育てて来たユージーンに何かしら連絡があっても良いはずだ。ユージーンもこの件についてはどうも何かを知っている様な素振りだったが。

「……わたし、この国に来る前の事や来たばかりの頃の事あまりおぼえてなくて」

「…! いや、十年以上前の事だ、スズランもまだあんなに幼かったもんな。無理もないよ」

 スズランが額を掌で抑える仕草が一瞬ハリと重なった。無理矢理聞き出したり思い出させるのはやはり良くないだろう。

「ちがうの。色んな事おぼえていた筈なのに頭の奥に靄がかかってるみたいにぼんやりとした曖昧な記憶しか…」

「そうか…。なのに俺の事、夢としてでもちゃんと覚えていてくれたんだな。嬉しいよ」

「だってライアがくれたあの言葉はわたしの宝物なの。何度も夢に見るくらい……大切なの」
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