《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 そう言うと女性は少し幼い表情でまた微笑んだ。そして、小さく会釈をすると森の中へと駆けて行ってしまった。そういえば森を抜けた先にはこの都で一番賑わっている酒場(バル)があったはずだ。酒場(バル)で働いていると聞いてラインアーサは何故か安堵した。少々露出の高い服装は店の給仕服だろうか等と思考をめぐらせる。

「名前、聞いとけば良かったかな……。!! ああっ! そういえば!!」

 ハリとの約束が頭からすっかりと抜け落ちていた事を思い出す。まさにその酒場(バル)で落ち合う約束をしていたのだった────。


「遅いですよ。一体どこでどんな時間の潰し方してたんです? 後少しで帰る所でした…」

「本当、悪かったって! なんか奢るからそんな怒るなよ」

 BAR Fruto del amor(バル・愛の果実) の扉の前でラインアーサとハリは小さな口論していた。

「適当に時間を潰しすぎですよ、全く。そうですね……では、この店で一番良い葡萄酒(ぶどうしゅ)でもいただきましょうか」

「はーい、なんでもどうぞ」

 兎に角ハリの機嫌を直す為、ラインアーサは素直に返事を返した。
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