《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「そういえば、こちら。必要かと思って持ってきましたけど」

 ハリはラインアーサに髪紐(かみひも)を手渡した。

「ん、助かる」

 ラインアーサは正装用に綺麗に解かされていた髪を無造作にかきあげ、いつもの様に後ろで小さく結わえた。そうする事で少しは印象を変えられると思っているのだが、実のところその効果は半々だ。特に年配の者や長くこの国に住んでいる者など、分かる人には分かってしまう傾向にある。


 ー BAR・Fruto del amor (バル・愛の果実)

 石造りの壁にこぢんまりとした木製の扉を開くと、すぐに地下へ続く石の階段がある。石階段を降り切ると外からは想像出来ない位の広さに驚く。カウンターに二階席まであり、ほとんどの席が客で埋まり店内は大賑わいを見せている。人々の活気と熱気で店内と外の温度差はまるで違っていた。

「暑いな! すごい熱気だ」

 熱に煽られ、ラインアーサはマントを脱いで手に抱えた。

「ですね。だいぶ賑わってる様で、何処か空席があると良いのですが」

 賑わう店内を見渡すと、やはり満席状態の様だった。
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