《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「苛つく。煩わしいんだよ……この頭痛も耳鳴りも、過去の記憶もしがらみも、この国も! もう何もかもウンザリだ」

「待ってくれ。……何を、言ってるのわからない…」

 ラインアーサはこの十一年間ハリを唯傍に置いていた訳では無い。ハリを信頼し、友情関係を築き上げて来たと勝手に思っていた。しかしそれはラインアーサの利己的で自己満足な思いに過ぎなかったのだろうか。

「その顔、傑作だよ。アハハハハ…! ハァ……ねえ、その部屋の中に居るんだろ?」

「……居るって、誰が」

「何とぼけてんの? 鈴蘭(スズラン)だよ。可哀想な僕の許嫁」

「なっ!? 許嫁ってやっぱりハリはスズランの…」

「そうだよ。でもくだらないだろ、許嫁だなんてさ」

「っ…どういう事だ?」

 困惑しながらハリに問うも、至極興味なさげな様子だ。

「さあね、知らないよ。愚父が勝手に決めた事だ。あの子は生まれる前から僕ら(・・)の許嫁って決まっていたみたいだからね。そんな事よりも僕は早くこの耳鳴りを止めたいんだ」

「耳鳴り?」

「せっかく頭痛から解放されて夢から醒めた気分だって言うのに、またもこの報いとやらが発動。おかげでサイアク。それもこれもラインアーサと裏切り者の鈴蘭…。君らの所為だ!」
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