《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 背後からハリの乾いた笑い声が響く。

「っ…くく…、あはは。どう? 大切な物を壊された気分は」

「……何…で、こんな事…」

 何とか声を絞り出す。

「言い忘れてたけど実はこの首輪、一度着けたら生きてる限り絶対に外せないんだ。だから鈴蘭には一度、死んでもらった。おかげで僕の方の耳鳴りは収まったし本当良かっ!? ぐぅっ…!」

「っ…こうやって……絞めたのか? スズランの首を」

 言葉よりも先に手が出ていた。
 自分でも信じ難い事に両手はハリの首に回っている。
 深い怒りと悲しみが混ざり合いドロドロとした黒い感情に飲まれてゆく。それでも手は僅かに震え、ハリの頸部を圧迫するのを躊躇している。そんなラインアーサを囃す様にハリは口角を綺麗に持ち上げた。

「ふ…。嫌いになったでしょ? 僕の事憎む? このまま首を絞めて僕の事も殺す? ……でもラインアーサ、君には無理だよ。出来やしない」

「何故、そんな事が言える…っ」

「簡単な事さ。君は弱いから…。君は目の前で他人が傷付いたり、死んでゆく事が耐えられない。ましてや自ら他人の生命を奪うなんて真似は出来ない…。そんなとことん心の弱い偽善者に殺しなんて出来るものか」

「…っ!」
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