《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 全て見透かされている。
 そう思うと次第に呼吸が乱れてくる。

 ───幼い頃から他人が苦しむ姿は勿論、虫や動物等の生命でさえも傷付く所を見るのは苦手だった。何故か無性に悲しくなるのだ。
 悲しんでいる者が居れば側で元気づけたい、怪我を負った者が居れば手当をしたり、困っている者が居ればどんなに些細な事でも何か手助けできないかと思う。
 お節介だ、偽善だと言われてもいい、常に心穏やかに自然体で居たい。周りはラインアーサのそれを優しさだと賞賛し尊ぶが、本人からすれば決してそうではない。自己犠牲かと言われればそれも少し違う。自分が悲しい思いをしたくない、それだけなのだ。
 わかりやすく言ってしまえば自己の我儘だ。やはりそれは偽善行為なのだろうか……。

 ラインアーサに葛藤が生じる中、ハリが更に追い討ちをかける言葉を紡ぐ。

「……トラウマなんでしょ? 目の前で母親に死なれて」

「違う…」

「何が違うの? その時に何も出来なかった自分を正当化して慰めたいが為に必死なんでしょ?」

「違う…っ」

「だったら早く僕の首を絞めて殺せよ! 出来もしない癖に!!」

「っ…く、…。っ…出来ない、俺は…」

 ラインアーサは両腕の力を緩め項垂れた。
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