《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
───アーサ。
あなたの眠れる能力はね、少し変わっているけれどとても素敵な力なの。
大切な人が出来たらその人の為に使えばいいわ…でも闇雲に使ったら駄目。
本当に困った時にだけ、きっとこの力が助けてくれるから。
それまでは大事に仕舞っておくのよ。
「───母様…。俺は大丈夫だから。受け継いだこの力……大切な人のために使うよ」
決意を固め静かにそう呟いた。
ラインアーサはスズランを暖める様に腕に抱くと掌を額にそっと重ねる。ひやりと冷たい身体に気を流し込む様にして集中力を高め瞳を閉じた。
真っ暗な脳裏に見知らぬ光景が幾つも浮かぶ。
豊かな緑と水源に囲まれた建物。
瑠璃色の空に満天の星々が瞬いている。
見た事の無い不思議な植物の影から異国の服を着たとても幼い女の子が姿を現す。
ああ、あれはスズランだ。
様々な場面の幼いスズランが脳裏に浮かびラインアーサを掠めて消えてゆく。
笑顔で野原を駆け回わる姿。お気に入りの服を汚してしまい悲しんだり、意地悪を言われて怒ったり、褒められたのか得意げになる様は表情豊かでとても可愛らしい。
どれも見た事のないラインアーサと出逢う前のスズランだった。