《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 日中行われた馬車行進(ディスフィーレ)の際に目が合っただとか、手を振ってもらったという女性客が興奮気味に騒いでいる。中には昨日、停車場で見かけたという者までいてハリは肝を冷やしていた。

「ライアはよくこんな中で飲めますね」

「こんなに賑わってるのに、大人しくしてる方が目立つと思うけど? 堂々としてた方が案外分からないもんだよ。あ、おにーさん、麦酒おかわりね!」

 ハリはまたもや呆れて溜息をついた。

「全く、貴方という人は……」

 それから二人は運ばれて来た料理と酒に舌鼓を打ちつつ、周りの客の話題に耳を傾けては様々な情報を頭に入れていった。
 大よその話を聞き(まと)めると、この都の住民は本当に賑やか事が好きで基本的に根が明るいという事を再確認した。そんな坦々たる平和な民の姿にラインアーサは嬉しくなった。愛する母国なのだ。不穏な雰囲気になどなって欲しくないと常々願っている。

「それよりもライア、飲みすぎは禁止です。と言うかそろそろ戻りませんか?」

 ハリがラインアーサの腕ごと掴み空になった杯を覗き込む。そして、あからさまに嫌そうに顔を顰めた。

「何だよ。今日位は多少飲んだって構わないだろ?」
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