《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「な、何。鈴蘭の事? それなら僕は謝らないよ」

「違う」

「じゃあ何?」

「今の、今話しているハリが本当のハリなのか…?」

 ハリと視線を合わせたまま返答を待つ。

「───は? 今更何を言ってるの? 僕は…」

「だったら俺と十一年間過ごしたハリは一体何処へ行ったんだ?」

「!!」

 幼い頃の事をあまり覚えていないと言っていたスズラン。だが潜在意識の奥には記憶の欠片が在り、見る限り正確に残っている様に思えた。
 と言うことはハリの中にも記憶は在る筈だ。それが今のハリだと言うのなら、共にこの国で過ごしてきたハリとは別人の様に見える。

「……ハリ」

「…ッ来るな! その目で見るな!!」

「俺は、何があってもハリの事を家族だと思ってる。ハリが困ってるなら…」

「嫌だ! 僕は君の何でも見透かす様なその瞳が苦手なんだ…! 僕の事何も、何も知らない癖に!」

「何言って…」

「大体僕と君とでは違い過ぎるんだ。同じ様な立場に生まれついたのに、国が違えばこうも違うのか? いや、国というよりも環境か……これだから恵まれてる奴は。あはは…っ」

 ハリが自虐的にぎこち無い笑い声をあげる。

「ハリ…?」

 何故自身とラインアーサを比べているか分からないが、とても苦しんでいるのは確かだ。
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