《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
微睡みの車窓
「───アーサ、こちらへおいで」
優しげな……しかし何処か愁いを帯びた低音でそう囁いたのはこの国 、シュサイラスア大国の国王・ライオネル。
アーサと呼ばれた人物。
ライオネルが息子・ラインアーサを愛情を込めて呼ぶときの愛称だ。しかしラインアーサの足は動かなかった。目の前の光景を現実として受け止められずにその場に立ち竦んでいた。
「……アーサ。母様の最期をきちんと看取ってあげなさい」
いつもに増して優しい筈のライオネルの声に、どうしてか怯えてしまう。それでも精一杯声を絞り出した。
「……いやだ」
「アーサ…?」
「母様が死ぬなんて信じない! そんなこと、あるわけないっ!!」
ラインアーサはそう声を荒げると部屋を飛び出した。扉を出てすぐのところで、父王の側近・コルトにぶつかった。
「アーサ殿下っ!? どちらへ…」
「どいてくれっ…!」
(───嘘だ…! 母様が死ぬ……死ん、だ…? そんなことあるわけない、だってついさっきまで、笑ってたじゃあないか……!!)
狼狽するコルトを押し退け、ラインアーサはまるで逃げる様に廊下を駆け抜けた。