《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 何故誤解を解きたいのか、何故スズランに嫌われたくないのか、自分でもよく分からない。強いて言えば女性に嫌われるのはこれが初めてなのだ。それで躍起(やっき)になっているのだろうと思い当たる。ラインアーサは短く息を吐いた。

「今日はもう帰るよ」

「あら、今来たばっかりなのに? じゃあその手付かずのオリーブとチーズのお料理、あたしが頂いちゃおうかしら?」

「……どうぞ。て言うかエリィは人の料理を取るのが趣味なのか?」

 初めて会った時もラインアーサの料理を勝手に食べていたのを思い出し、つい笑みがこぼれた。

「だって勿体無いじゃあないの! それはそうとライア。貴方って笑顔がとっても素敵なのね。ねぇ、もう一度笑って見せて?」

「いや……またな」

 うっとりとエリィの頬がほんのり赤く染まった。そういえば笑うの自体久々だと思いつつ席を立つ。
 笑顔といえば、スズランの笑顔がもう一度見たいのだ。花が綻ぶ様な……あの愛らしい笑顔。セィシェルと話す時や客への対応時、スズランはよくその笑顔を見せる。煌めく虹色の瞳を細めて可愛らしく笑うのだ……。
 しかしラインアーサを見る瞳だけはとても冷たい。嫌われているのだから当然だが。
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