《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「あ、あなたこそ……何故ここにいるの?」

 こちらを訝しむスズランの表情に慌てて状況を説明する。

「おい、別に待ち伏せとかじゃあないからな? 今から帰るとこだったんだ!」

 思わず森の方を指差してから、しまったと言わんばかりに口元を押さえた。まさか王宮へ戻るから森を通るのだとは言えない。

「帰るって……でも、その森は王宮の敷地でしょ?」

「ち、近道だ。俺の家はあっちなんだよ……」

 方角で誤魔化したつもりだが暫くの間、その場が重苦しい空気の沈黙に包まれる。
 ぽたりと、スズランの細い指先から鮮血が滴り落ちた。

「っ痛」

「手、見せて」

「……でも」

 ラインアーサが手を差し出すと、あからさまに怯えた表情になる。

「いいから」

 強引にスズランの手を取り指先の傷を確認した。この位の傷ならば簡単に治療出来る。
 イリアーナ同様、ラインアーサも風の息吹(アイレ・アリェント)を借りた癒しの煌像術(ルキュアス)が得意だ。シュサイラスアに古くから住まう民は皆、元より風の息吹(アイレ・アリェント)を感じ取る事が出来、日々の生活を助ける程度の煌像術(ルキュアス)を扱うことが出来る。だが王族である場合、術力、技量共に一般の民とは比べ物にならない程高く、より高度な技も使うことが可能だ。
< 72 / 529 >

この作品をシェア

pagetop