《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「あ、あなたこそ……何故ここにいるの?」
こちらを訝しむスズランの表情に慌てて状況を説明する。
「おい、別に待ち伏せとかじゃあないからな? 今から帰るとこだったんだ!」
思わず森の方を指差してから、しまったと言わんばかりに口元を押さえた。まさか王宮へ戻るから森を通るのだとは言えない。
「帰るって……でも、その森は王宮の敷地でしょ?」
「ち、近道だ。俺の家はあっちなんだよ……」
方角で誤魔化したつもりだが暫くの間、その場が重苦しい空気の沈黙に包まれる。
ぽたりと、スズランの細い指先から鮮血が滴り落ちた。
「っ痛」
「手、見せて」
「……でも」
ラインアーサが手を差し出すと、あからさまに怯えた表情になる。
「いいから」
強引にスズランの手を取り指先の傷を確認した。この位の傷ならば簡単に治療出来る。
イリアーナ同様、ラインアーサも風の息吹を借りた癒しの煌像術が得意だ。シュサイラスアに古くから住まう民は皆、元より風の息吹を感じ取る事が出来、日々の生活を助ける程度の煌像術を扱うことが出来る。だが王族である場合、術力、技量共に一般の民とは比べ物にならない程高く、より高度な技も使うことが可能だ。
こちらを訝しむスズランの表情に慌てて状況を説明する。
「おい、別に待ち伏せとかじゃあないからな? 今から帰るとこだったんだ!」
思わず森の方を指差してから、しまったと言わんばかりに口元を押さえた。まさか王宮へ戻るから森を通るのだとは言えない。
「帰るって……でも、その森は王宮の敷地でしょ?」
「ち、近道だ。俺の家はあっちなんだよ……」
方角で誤魔化したつもりだが暫くの間、その場が重苦しい空気の沈黙に包まれる。
ぽたりと、スズランの細い指先から鮮血が滴り落ちた。
「っ痛」
「手、見せて」
「……でも」
ラインアーサが手を差し出すと、あからさまに怯えた表情になる。
「いいから」
強引にスズランの手を取り指先の傷を確認した。この位の傷ならば簡単に治療出来る。
イリアーナ同様、ラインアーサも風の息吹を借りた癒しの煌像術が得意だ。シュサイラスアに古くから住まう民は皆、元より風の息吹を感じ取る事が出来、日々の生活を助ける程度の煌像術を扱うことが出来る。だが王族である場合、術力、技量共に一般の民とは比べ物にならない程高く、より高度な技も使うことが可能だ。