《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 瞳をそらさずに親指で唇をなぞる。
 (てのひら)の中で僅かに身動ぎするスズラン。しかし、戸惑いながらもあどけない表情でこちらを見つめ返してくる。

「……? …」

 今から何をされるのか想像すらつかないのだろうか。不思議そうな瞳が淡く煌めいて見えた。
 ラインアーサはゆっくりその表情を堪能してから、スズランの唇に自身のそれを押し付けた。薄く開いていた唇を吸い、探る様に舌を入れてかき回すと今度は大きく反応を示した。はじめは抵抗するも、暫くすると次第に大人しくなりスズランは力が抜けたのかその場にへたり込んだ。
 先程までの苛立ちは不思議と消えていて、気分が良くなるとラインアーサはわざと意地悪な笑みを浮かべて囁いた。

「いい反応……誘ってんの?」

「なっ! ……なっ!!?」

 首筋まで真っ赤に染まったスズランが必死に抗議するような目付きで睨んでくる。その瞳には薄っすら涙が滲んでいて、ラインアーサをますます掻き立てた。今ならセィシェルの気持ちが多少理解できる。確かにスズランは無防備過ぎるほど純真で見ていて危なっかしいのだ。
 まだ大人になり切っていない、故に無防備で真っさらな少女、スズラン。
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