《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 エテジアーナは元々身体が強くなかった。しかしその身を追い立てるように、各国で内乱が起こったのだ。
 一見平和なこの世界で、何が原因で内乱など起こったのか。まだ少年のラインアーサには到底理解できなかった。
 目の前で姉のイリアーナが人質として(さら)われ、エテジアーナはそのことが元で虚脱状態となり、病に伏してしまった。依然としてイリアーナは行方不明のままだ。
 ラインアーサは自分の力のなさを悔やんでいた。だからこそ必ず父の力になり、この手で姉を探し出してみせるという想いを胸に刻込んだ矢先、危篤の知らせを受けたのだ。
 空を仰ぐとラインアーサは誰にも気付かれぬ様、手の甲で目尻を拭い立ち上がった。現実から逃げていても母や父、王宮の皆に心配をかけてしまう。

「戻らないと……」

 その時、突如背後から子供の泣き声がきこえてきた。

「うえぇぇん! ぱぱぁ!! どこ〜?」

 迷子だろうか?
 おそらく外の森から王宮の敷地内に迷い込んだのだろう。声の方へ振り向くと三、四歳程の幼い少女が泣きながら彷徨っている。簡素だがよく見ると上等な服は異国の物だろうか。この辺りでは見かけない薄い千草色(ちぐさいろ)の髪に、抜ける様な白い肌。
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