《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 イリアーナは涙をそっと拭い、ラインアーサに優しく微笑んだ。

「どういたしまして…! だって俺、ずっと信じてたんだ。姉上は絶対に無事だってね! 姉上こそ、無事でいてくれて本当にありがとう。だからこそブラッド兄様と二人で幸せになって欲しい」

 ラインアーサもつられて微笑み返す。

「アーサったら……わたしは貴方にも幸せになってもらいたいのよ? もう無理なんてしなくていいのだから、これからは自分の事も考えてね」

「分かったよ……姉上」

 自分の事……。
 ライオネルも同じ様な事をぼやいていた。早く身を固めろと言う事なのだろうが、ラインアーサの次なる目標はハリの家族を探す事であった。
 王宮の誰もが、ハリの心から笑う姿を知らない。この十一年間、かなりの時間を共に過ごしてきた筈なのに何処か掴めない性格。手ごたえの薄い反応。やはり内乱以前の記憶が無い事が関係しているのだろうか。だから、せめて記憶を取り戻す事が出来ればとは考えている。それまでは一旦、自分の事を後回しにしよう。
 そうラインアーサは決めていた。たとえ、気付いてしまった想いがその身を焦がし続けても───。
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