《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 そう信じたいのだ。でなければ、何の理由もなしに我が子の側から離れるなど考えられないのだから。

「そんな事言ってくれたの、警備さんが初めて……なんだか、夢の人みたい」

「夢の人?」

「子供の頃から、よく見る夢なの。……その夢に出てくる人がね、お利口にしてたらきっと迎えに来てくれるって。一緒にパパを探してあげるって言ってくれるの。その人、おひさまみたいに笑うとっても素敵な人なんだ……。おかしいよね、こんな都合のいい夢を見るなんて。でも、ここがその夢に出て来る場所にすごく似てるから…」

 そう告げる横顔が寂しげだ。

「っ…何もおかしい事はない! 俺がもしその夢の人物でも同じ事を言う。だから……自分の事を捨てられたなんて…」

 まさかスズランがあの日の出来事を夢だと思っていたとは。当時はまだ幼かった為なのか。それでも夢という形であれ、あの日の出来事を覚えていてくれた事は純粋に嬉しい。

「ありがとう! でもわたし今はぜんぜんさみしくないの。マスターもセィシェルも本当の家族みたいだし、警備さんだってやっぱりすごくいい人!」

 そう言ってスズランはラインアーサの大好きな笑顔を浮かべた。〝ライア〟には決して見せてくれないあの笑顔を。
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