《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 涙に濡れたその顔立ちは、はっとするほど可憐で……率直に言ってしまえば、美少女だ。
 恐らく先の内乱で、他国から中立のこの国(シュサイラスア)へと疎開してきたのだろう。身なりから推測するに、身分の高い家の者の様に思えた。早く保護して親を捜索しなければ。今の自分に出来る事はそれ位しかない。思い立ったラインアーサは少女に駆け寄り、屈み込んで目線を合わせてやった。

「……えっと、君……どうしたの?」

 務めて明るく声を掛けたつもりだったのだが、少女に思い切り怯えた顔をされてしまい複雑だ。

「……お、おにぃちゃん、だれなの?」

 しかし驚いたのか、少女の涙は引っ込んだ。こちらを見つめ返すその大きな双眸には涙が溜まり、夕陽に照らされて淡く虹色に煌めいている。

 ───あまりに綺麗で、思わず見惚(みほ)れていた。

 穏やかな風が二人の間を吹き抜けて、ラインアーサの髪をふわりとさらう。が、気がつくと少女はまた泣き出しそうになっていた。

「あ……ああ! 君、迷子だろ?」

「……うん」

 取り敢えず場を繋ぐ様にそう問うと不安げにこくりと頷かれた。

「俺の名前は、ラインアーサ」

 慌てて己の名を名乗る。
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