《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 何処までも純真で無防備なスズラン。好意的な相手にそんな事を言われて喜ばない男などいない。これは 〝警備員〟としてのラインアーサに多少は好意を持っていると捉えて良いのだろうか。

「……スズラン」

 スズランと瞳が合う。一度、瞳を合わせてしまったらもう逸らすことは出来なかった。数刻前、口づけした時の記憶が蘇る。柔らかだった唇の感触……。
 スズランの甘い香りがラインアーサを突き動かす。

「? ……警備さん? あと、わたし。警備さんの名前、知りたいな」

 しかし突然名前を聞かれ、ラインアーサは狼狽えた。───本名を名乗るか、それとも〝ライア〟だと明かすべきか?
 しかし……。

「……悪いが、警備隊の規則で名は教えられない」

 また咄嗟にそんなありもしない嘘をついた。けれどラインアーサも、もう少しだけ素のままのスズランと話がしたい。だから、本当の名を明かす事は出来なかった。

「そうなの、残念。でも、また会えるなら……」

 スズランは残念そうに俯くも、もう一度ラインアーサの顔を覗き込んできた。何も考えずその顔を見つめていると、やや強めに左腕を引かれる。突然の事に均衡(きんこう)を失いかけてよろめく。
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