《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「久々だって言うのに何の冗談だよ……」

 比較的周りに甘やかされて育ったラインアーサだが、ジュストベルにはなかなか厳しく指導を受け鍛え上げられた。成人と同時にイリアーナの捜査許可を得る為、ラインアーサ自身も望んだ事だったが。

「冗談などではありませんぞ? 貴方様は相変わらず向こう見ずな所が直っていない様で。何度申したら非公式で街を散策するのをお辞め頂けるのです。陛下のお気持ちを少しは考えた事はございますか?」

 ハリよりも的確かつ説教っぽいジュストベルの小言は毎回ラインアーサを尻込みさせる。

「考えてはいるよ……でも俺だって別に闇雲に街を散策してる訳じゃあない。父上も知らない情報が色々と得られるんだ」

「それは民兵の護衛隊が行うべき職務です。貴方様には貴方様のなさるべき事がある筈……特に、各地から舞い込んで来る縁談申入れの書簡は溜まってゆく一方ですぞ? そろそろ落ち着かれても宜しいのでは」

「……縁談の件は父上と姉上にも言われたばかりなんだ。もう暫くは勘弁してくれよ」

 実際に国としてはとても安定しているシュサイラスア大国。その王位継承者であるラインアーサには、未だに決まった相手所か婚約者すらいないのだ。
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