15歳、アンタとワタシ
「ただいま」
玄関を開けて違和感を感じたのは、いつも言い争っている父母の声が聞こえない。
父の仕事は早朝から始まり、15時には終わる。
だから、この時間に帰るといつも父母の言い争っている声が響いているのに…。
靴が散乱し、玄関に飾ってある花が枯れているのを見て「はぁ」と一つため息をつく。
少し汚くなったローファーを脱いでいると、リビングから顔を出して涙目の母が私に声をかけた。
「サキコ、話があるからこっちに来て」
すぐに制服を脱いで、が、口癖のような母が自室に行かせることなく私をリビングに招く。
妙な違和感。涙目の母。静寂した家。
何を言われるかもう分かっていた。
けれど、分かりたくなかった。
ギシっと軋む古い床を、一歩ずつ歩く。
リビングに入ると、父がソファーに項垂れるように座っていた。
「…サキコ、すまん」
父の情けない一言から始まる話し合い。
いや、話し合いなんかではなく、私には事後報告でしかない。
「…離婚、すんの?」
私の言葉に静かに頷く父母の姿があまりにも情けなくて、グッと握った手のひらに爪の跡を残す。
「サキコが、ハタチになるまでは…と思っていたんだけど…ごめんね。
サキコ、年末までにはお母さんの実家に引っ越すからね」
「……私、ここ離れたくない」
生まれ育った街、仲の良い友人、幼馴染のアラタ、離れるにはあまりにも寂しすぎる現実を受け入れることは出来ない。