15歳、アンタとワタシ
「サキコ、お父さんも年末、ここを出る」
父の一言で、私は唾を飲んだ。
今まで吐き出したくても吐き出さなかった感情がふつふつと湧き上がる。
般若のような顔をしていただろう。
父に睨みつけて私は声を張り上げた。
「はぁ?私、知ってるんだよ?あの女のところに行くんでしょ?お母さんと私だけが出て行くこと、体裁悪いもんね。あの女はここに住むこと出来ないもんね!
何がサキコの為にハタチまでは…よ!
全部自分の為じゃない!」
娘の初めての怒りの感情に、これ見よがしにガシャンーと、グラスを落として動揺していることを知らせる母。
項垂れていた肩を、もっと落とし「すまん…サキコ…」と、弁解すらしない父。
「私、ここに残る!絶対残るから!」
母と同様に、自分が怒っているということを表現するかのように、ドスドスと足音を立てて玄関へ向かってローファーを履く。
「待ちなさい!どこに行くの!?」と、私を静止しようとする母の声に「関係ないでしょ!」と、可愛げのない声を荒げると、重たい扉を開けてバタンと大きな音を立てて締める。
そのまま走り続けたーー
どこだって良かった。
頭が冷やせる場所があるのならどこだって…。
ーーそう、私は分かっていた。
私がどんなにここに残りたいと叫んだところで、まだ15歳。
一般常識も経済力もない15歳。
残るのは不可能なことくらい、分かっていた。
母の田舎は子どもにとってはかなり遠く、ここで知り合った人たちと永遠の別れになるような気がしてならない。
だからと言って、父と愛人と笑顔で暮らせるほど精神的にも強くない。