ずるい人
二人で乗り込むと、いつもは無言なのに、類君がこっちを見て言った。
「どうぞ、お座り下さい。」
ちょっとだけぶっきらぼうに一言、そう言ったのだ。
私の脳が、フリーズする。
ドキドキドキドキ…
その一言だけで、さっきまでの暗い気持ちは何処かへ行ってしまった。
決して優しい言い方じゃない。
だけど、少しでも、気にしてくれていたんだって、それだけで、私は嬉しくなる。
「ありがとう、じゃあ、お言葉に甘えて。」
私が角の席に座ると、類君は私が前そうしたように、その壁に寄り掛かった。
ガタン,ガタン…
電車に揺られる音だけが、車内に響く。
ふっと右上を見上げると、類君の男らしい背中があって。
いつか、この距離が縮まりますように。
そう願って、私は右の壁に頭をこつんとくっつけた。