『華國ノ史』
 ボーワイルドによって火がつけられたランタンからは、黒い煙がもうもうと上がった。

 
 それは次第に形をなし、長く禍々しい黒い爪を持った死神が現れた。

 崩れた顔、紺のぼろきれを纏い、宙に浮いている。

 少し辺りを見回すと、ボーワイルドの手元のランタンを見つけ長く息を吐いた。

ボーワイルド
「ふむ。本物であったか」

死神
「我を前にして随分余裕のようだな?」

ボーワイルド
「約束を守って貰おう。

 あのドラゴンの命を火を消して見せて貰う」

 
 死神はちらりと後ろを振り替えると向き直ってボーワイルドを見た。


死神「断れば?」

ボーワイルド
「約束を守らぬ者だと知れわたるだけだ」

 死神は少しばかり不機嫌そうな感じあった。


死神
「お前は約束をした王ではない。

 その王の魂は既に私のかごに入っているぞ?」


ボーワイルド
「私はその末裔だ。

 お前を行使する権利があると周りは考えるのが当然であろう?」


 行使という言葉に怒りに覚えた死神はその長い爪でボーワイルドの立つ近くの地面を引き裂いた。


死神
「一度だけだ。
 
 それで契約は終わりだ」

ボーワイルド「認めよう」

死神
「貴様が死ぬのが楽しみだ。

 迎えに行ってやる」

ボーワイルド
「先に条件の良さそうな悪魔に魂を売るさ」

 
 死神の不快な笑いは辺りにいた兵士達を震え上がらせた。

 
死神
「お前は祖先と違い頭が良いようだ。

 気に入ったぞ。

 しかしドラゴンが相手とはな、高い買い物になった。

 倒した所で奴の魂はドラゴンの聖地に運ばれるだろう。

 まったく大損だ」


 そう言い残すと死神は黒い煙を纏いユラリユラリとドラゴンに向かい飛んで行った。


 兵士達は死神と堂々と交渉した将軍を誇らしげに見た。

煌皇兵士
「末裔だったのでありますか?」

ボーワイルド
「そんな訳無いだろ。

 俺はいやしい詐欺師一族のでだ。

 撤退の旗を立てよ!

 帰還する」

 ボーワイルドはその決着を見ようともせず、

 ランタンを嫌そうな顔をする兵士に押し付けた。


 
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