『華國ノ史』
道化と少年の唄
セブンの住むこの大陸は2つの巨大な国家によって統治されている。
大陸中央、東西に走る険しい山脈がそれらを南北に分け、いくつかの関所によって繋がっていた。
両国共に戦争、合併、吸収を繰り返し大きくなった国であった為、やはり大陸統一を目指す両者の衝突は避けられなかった。
二度目の大きな戦争での消耗はお互いに激しく、停戦条約が結ばれて2年の歳月がたっていた。
旅のピエロが見つけた魔法に目覚めた少年、セブンは北勢力「華國(ハナクニ、カコクとも呼ばれる)」の南に位置する豊かな農地で育つ。
ピエロは華國の魔法使いであり、停戦後は内部調査が主な任務であった。
内調の主な仕事は反国家主義者の調査、敵勢力潜伏員の調査、各地方の現状の把握また領主の動向の監査等々、多岐にわたる。
表向きは旅芸人のピエロであるが、その目立つ容姿から多くの者は彼が内調であると知っていた。
知ってはいるが、この道化、かなりの実力の持ち主であり性格は冷酷で、人の嘘を見抜く事に長けている。
その為、彼が来ると善良な市民は喜び、善良ならざる者は涙を流した。
セブンのような突発的に魔法を使える者を華國の北にある魔法都市へと召喚するのも彼の役目である。
魔法使いはかなり貴重な存在であった。
彼らの多くは華國軍の主軸である部隊長となり、戦場の主役として戦う運命にあった。
セブンはその事をあまり解っていないのだろう。
家族と別れ、生まれ育った町を離れいくうちにセブンは泣き止み、笑顔になっていた。
「こんなに遠くまで来たのは初めてだよ」
「魔法都市はもっと、もっと遠いぞ?」
「王都にも行くの?」
「王都にはよらないなー、その代わり港街に寄ってくよ」
「港街?じゃあ海見えるかな?」
「おっきいし、しょっぱいぞー?」
「いーっやったー」
「どうする?すぐに魔法都市に行く事も出来るけど?
色々見て回ってみるかい?」
「色んな所に行ってみたい」
「じゃあそうしよう、春に着けば良いだろ」
普段ならば直ぐに魔法都市へと連れて行くのだが、急ぎの仕事があったのでピエロはセブンを少し付き合わせる事にしたのだった。
ただ急ぎの仕事があったからというのは言い訳であった。
ピエロはこの少年に愛着を持ち始めていたのだ。
この少年には嘘が無い。
こんな人間を見るのは珍しかったからであった。