『華國ノ史』
 一手目をボーワイルドの奇襲という形でとられ、

 遅れをとれない華國軍事部は総力を結集し、戦況を読んだ。


 その結果ボーワイルド率いる軍勢の本国帰還を前に華國は迅速な反撃に出る。


 華國にとって比較的に防御の薄い東側ルートに師団及び魔法使いの部隊を送り攻略へと取り掛かった。


 率いるのは第一王子であるリンスだった。


 彼が前線へ着くやいなや、多くの兵士が武器を掲げ声を上げた。


 リンスは即刻作戦会議を開き、部隊配備を整えると自ら先陣に立ち、

 魔法部隊の三強と師団の中でも精鋭の軍団を選び少数精鋭での突撃を繰り返した。


 その速力は凄まじく、前線において敗戦、撤退の報が後方の煌皇軍に伝わると同時に華國軍は姿を現したほどであった。


 良いように振り回されていた華國軍は、魔法都市の弔い戦ともあり士気が高く、

 リンスの活躍で更なる高揚を見せる。

 
 兵力差はあったものの一週間足らずで山脈内の渓谷を制圧したリンスは後方施設の修復を急がせる。


 この時幾つかの魔法部隊が少数で山脈の小道を越え煌皇軍の後方の撹乱に成功していた。


 煌皇軍は華國軍の急速な襲撃で被害を多く受け、

 関所のいくつもの防衛軍は後方に後退、渓谷より少し離れた強固な要塞に立て籠り援軍を待った。


 更に華國の策が功を成した。


 煌皇国が前もって大戦の準備を進めていたように華國もまた進めていた計画があった。

 
 山脈勢力の懐柔。

 
 これには華國第二王子のトリートが任務にあたっていた。

 
 リンスと違い痩せたトリートは武には優れなかったが、国を思う気持ちはリンスに負けぬとも劣らなかった。


 トリートは少数の非武装部隊を率い過酷な山脈を渡り歩き山間民族、

 盗賊集団と交渉に渡っていた。


 一国の王子ではあるが、その肩書は辺境の地では安身の保証とはならなかった。


 幾度も捕まり、命の危険に晒されながらも彼は山脈を歩き続けた。


 その風貌は当初の面影は無く長い旅の果てにボロボロになっていた。


 次第に彼の異様なまでの執念に多くの者が心を動かされていく。


 元より差別意識の強い煌皇国よりも華國についた方が得策であると考えた者は彼に付き、

 大陸統一後に粛清対象となる盗賊達は戦争での武功を求めトリートに従った。


 しかしそんな中、最後まで傘下に収まらなかった部族があった。

 
 山脈の王族と言われた雪狼(セツロウ)の一族である。

 

 

 
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