『華國ノ史』
 山脈で一番過酷な環境で生活している彼らは、

 女神の守護を司る神の子孫であると信じていた。


 また山脈で生活する者はそう信じて疑わなかった。

 
 それ程までに彼らの出生の由来通りに強かったからである。

 
 巨大で獰猛な雪狼を狩り、その毛皮のマントを纏い、

 自身の身の丈程の剣先が平らで武骨な巨剣を操う。

 

「山脈で雪狼を見たら死を覚悟で戦いに望め、

 彼らの足から逃れる事は出来ない。


 雪狼のマントを身に付けている者を見たならば、

 黙って死を覚悟し雪崩が起きる事を神に祈れ」


 彼らを比喩した言葉である。

 
 その部族の住む集落に数人の男が自ら向かっていた。

 
 警戒にあたっていた雪狼族の男がこれを発見し、急ぎ族長に報告をする。


「武器も持たず、汚い彼らは凍ったひげの下に笑みを浮かべている」


 族長はトリート達に興味を示した。


 自分達がどういった部族であるかを知っているにも関わらず、

 間抜け面をして山を登ってきたトリートの一団を迎えたのだった。


 しかしそれはただの暇潰しという感覚程度であった。


 一応の話を聞いた族長は部下に命令を出し、

 トリート達を雪ソリにくくりつけ、来た道を強制的に滑り落とさせた。


 しかし数日後再度彼らはまたやって来た。


 復讐に来たと思われたトリート達は一方的に暴行を受け、雪狼の巣に放置された。


 狼の糞を体に塗って雪狼の鼻を誤魔化し、

 命からがら逃げ出せた一団は三度目の訪問を行った。


 これには雪狼族も驚き、彼らを認めた。


 雪狼族は倒した雪狼に敬意を表し皮を鞣し、身に纏う事が習わしであった。


 強い者には敬意を払うのである。


 トリートは強い男だと認められ、


「諦めの悪いひげ」と名をつけられた。


 そこからはトリートの素性を話し、煌皇軍を共に倒すとの約束を取り付けた。


 交渉にあたってトリートは山脈誕生神話と雪狼族出生の神話を利用した。

 
 共に男神の土地とされる南大陸を蹂躙し、

 報酬を女神の住まうとされた北大陸華國の土地を少しとしたのであった。

 
 閉ざされた土地で生活していた彼らは血が濃くなり子に恵まれなくなって来ていた。

 
 これを憂いていた族長はトリートの話に乗り気になる。

 
 男神の土地を奪えば女神の祝福を受けられると族長は考えたからであった。

 
 こうしてトリートは山脈勢力を殆ど味方につける事に成功する。

 
 族長からは盟友の証として雪狼の毛皮の中でも一際美しく銀の毛を持つ毛皮が贈られた。


 それは彼が王城を出て十年もの歳月が経った頃である。


 山脈勢力を全て結集すれば一個師団ほどの戦力になった。


 それ以上にこの後華國軍は山脈での戦いを有利に進める事が出来るようになったのであった。

 
 

 

 



 
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