『華國ノ史』
 王城に戻ったトリートは初めその汚れた風貌から入場を門兵に拒否された。


 無理もないであろう。


 リンスとは真逆で薄汚れた男が柄の悪い異様な代表者を従え王子を名乗るのだ。


 報告を受けた王が慌てて城を飛び出し、

 十年もの間身を呈して交渉に向かっていたトリートを抱き締める。


 何度かトリートからの便りを受けていた王はトリートを称え、

 トリートは今までの苦労からか涙を流し報告を行った。


 既に出撃をした兄であるリンスに合流すべく、

 各山脈勢力に使いを出しトリートは直ぐに城を出て東の関所へと向かった。

 
 城を出る前は好青年の風貌であったトリートは醜く汚れていたが、

 民は彼の出撃を総出で見送った。


「あの汚れは我々民の為のものである」


「執念の男、十年英雄」


「汚れを恐れぬ美しい華」

 
 王都オールインの民は様々に賛辞を送り、

 トリートは威風堂々出撃する。

 
 最所は半信半疑だった山脈勢力代表者もこれに気を良くした。


 リンスは第一、第二、第三師団及び、魔法部隊の総勢一万五千の兵力をもって東の関所を破り占領。


 この時敵の守備兵は全て合わせ六千。


 しかし煌皇軍は兵力を分散させて守備に着いていた為に、

 リンス率いる大軍と精鋭に各個撃破され、その数を千近くにまで減らされた。


 煌皇軍は関所を放棄し要塞の兵と合流、本国と周辺の援軍を取り込みおよそ五千にまで兵力を回復させる。


 リンスは関所の要所を全て陥落させ、千の兵を失った。

 
 そこへトリートが合流する。

 二人は久々の再開を喜び、お互いの功績を称え合った。


 トリートはリンスの陣営に入り、リンスはトリートの集めた山脈勢力の援軍を待った。


 この間に後方の補給ルートの整備を確実な物とし、一気に煌皇領へと攻め込む算段であった。


 関所前の要塞に立て籠る煌皇軍に数では優位に立っていた華國軍であったが、

 勢いに任せて攻める事をしなかったリンスは戦が上手いと後々評価された。


 一旦兵を休ませ、軍の編成を行い、兵糧搬送ルートの確保、山脈勢力の吸収を行い、攻城の算段を行った。


 トリートを訪ねやって来た山脈勢力の兵は日々増え続け、

 華國軍は一万七千にまで膨れ上がる。

 
 武勇を誇り自らの力を示した
 
 第一王子
 リンス・ロイヤル・スタッグ

 
 愛国心を自ら示して見せた
 
 第二王子
 トリート・ロイヤル・スタッグ


 金髪を揺らし勇敢に戦うリンスは

 「金獅子」と呼ばれ、
 
 銀の毛皮を纏うトリートは

 「銀狼」と呼ばれるようになる。

 
 双頭の勇者に率いられる華國東軍は歴代でも屈指の勢力と精強を誇った。


 そして戦場の要となる山脈の東の勢力図は一気に華國が掌握するに至ったのであった。
 

 
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