『華國ノ史』

三日月城塞にて

 セブンは三日月城塞の指揮官として城塞中を慌ただしく駆け回った。


 若干15才の指揮官は懸命に隊長職をこなそうと躍起になっている。


 ウルブスは常に厳しく徹底的に指導を行った。


 早朝から城塞内を見回り、各部隊長から人数点呼確認を行う。


 朝食を食べながら各部隊長からの要望や提案を聞き、

 それを会議にかける。


 午前中は練兵を行い、昼食をとりながら残りの兵糧を報告され、

 物資の配給量を決定した。

 
 これには父からの支援のお陰で余裕が出来た。


 昼からは古い城塞の修築作業を手伝い、今後の戦略を考察した。


 夕食を終えた後はウルブスと戦術について語り、

 王都への報告書をまとめ、1人城壁に登り剣を振って就寝する。


 日によって業務内容は代わるが、暇さえあればウルブスは「もしも」話を繰り返していた。


ウルブス
「では、もしも内部に裏切り者がいたらどうしますか?」


セブン
「うーん、部隊長に監視させる?」


ウルブス
「部隊長レベルでの裏切りならばどうします?」

セブン
「まずは監禁して真意を問う」

ウルブス「不正解」

セブン「正解は?」

ウルブス
「非情な手段となりますが、偽の情報を流し泳がせます。


 その後に部隊事罠にはめ皆殺しにします。


 さらに偽の情報の裏をかき敵を駆逐するのです」

セブン
「説得すればいいじゃないか」

ウルブス
「不正解。

 味方を裏切る程の決意がある者は、情に流されるという事は戦場ではあり得ません。


 いちいちそんな事をしていたら被害が大きくなるばかりだ。

 
 その覚悟がなければ今すぐ隊長を降りなさい。

 
 大義名分があろうが無かろうが人を殺めるのが戦争です」

セブン「みんなそうかな?」

ウルブス
「多くの命を預かるだけが指揮をとる者の仕事ではありません。


 命を奪うという苦悩をその一身に受け止め、消化し、

 解決する事が出来る者のみが真の指揮官となれると私は考えます。


 貴方なら出来る。

 人の心を忘れずに戦える偉大な指導者に。

 誰よりも優しいからこそ守る為に攻める事が出来る」

セブン
「ウルブスはそうなの?」

ウルブス
「私は貴方程優しくは無い。

 ですが、貴方の心の負担を減らす為に鬼にでもなりましょう。


 騎士セブン、友よ。

 私は多くの命を奪うが、貴方の為では無い。

 戦争を終わらせる為に剣を振るいます。


 貴方は指示を出すが、多くの者は自分の理想の為に戦場に立つと考えなさい。

 貴方には強くなって頂かなければ。

 体も、そして心も」

セブン
「みんなが嫌がる仕事は誰かがやらなくてはって事か」


ウルブス
「正解。

 教養無き者は隊長職に憧れを抱く。

 冷血漢は戦争に名誉を求める。

 しかし貴方は葛藤するでしょう」
 
セブン
「ウルブスは名誉を求めるって言うけど、本当はそうじゃ無いよね?」


ウルブス
「半分正解」

 セブンはウルブスの期待を感じていたが、

 自分がそれほどの人物だろうかといつも考えさせられていた。
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