『華國ノ史』
 煌皇軍の軍事高位三人の不安は的中する。


 リンスはかなりの策略家でもあった。

 
 早速リンスは騎馬隊を率い関所より出撃。

 
 その数はおよそ百人、リンスは最も得意とする武器を手に取り兜を被る。


 王家の証である雄鹿の角が後方に伸びる黒き兜からは、

 金色の長い髪が風にたなびいている。


 その右脇に抱える武器は長柄の斧であり、
 
 斧の刃は鹿の角の様に二枚伸びている。


 「王鹿の戦斧」

 
 見た目以上に軽いその武器を手にし、騎馬に股がったリンスは王国の戦華と呼ばれている。


 たった百人の出撃に怒りを覚えたキュバインは、

 自分の腹心を含む敵の半数のおよそ五十を率い他の二将軍の制止も聞かず迎え撃つ。


 大男のキュバインは魔法の効力を弱める鎧を着込み、

 更に一回り大きく見える。


 武器は一対の大きな手斧である。


 指を守るフィンガーガードにまで刃が施されている。

 
 キュバインは遠方より大声で叫んだ。


キュバイン
「自惚れた子鹿よ!

 その自慢の細き角を差し出せ!

 命は助けてやろう!

 花に囲まれた街に帰り、

 女の様に泣いていろ!」


リンス
「武人なれば!

 戦いでその挑発に答えよう!」

キュバイン
「おいっ聞いたか?

 俺に向かって武人について語りやがったぞ。

 俺は誰だ?

 煌皇国の武将だぞ?

 あいつは俺が殺す、お前等は他を殺れ」

 
 両軍は速度を上げ衝突するかの用に思えたがそこでリンスが仕掛けた。


 騎馬に乗っていたのは只の騎馬兵力ではなく魔法使いの精鋭達であった。


 急に方向を変え様々な魔法がキュバイン達を襲う。

 
 キュバインは両腕で顔を覆いそれを防いだが、

 馬は耐えきれずに地に投げ飛ばされてしまった。


リンス
「魔法嫌いの鎧か!

 さすがは猛将、余程魔法が恐ろしいと見える」


キュバイン
「貴様!卑怯だぞ!

 戦士なら、降りて戦え!」

リンス
「女の様に花に囲まれて泣いて育ったのでな、そんな勇敢さは無い。

 
 それにボーワイルドならばその提案に乗ると思うか?」

 
 キュバイン怒りに任せに右手の斧を投げつけた。

 
 リンスはそれを猛烈な一撃で弾き落とす。

 
 キュバインはニヤリと笑う。


キュバイン
「やるな、並みの者なら死んでいる。

 好敵手か…久し振りだ」


リンス
「この程度でか?

 余程、煌皇軍は人材が不足しているのだな」

 リンスはそう言い、退却の合図を出す。


キュバイン
「もう帰るのか?ワシを誘い出し、首を取るのだろ?」


リンス
「お前には生きていて貰わねば勝てそうも無いのでな」


キュバイン
「面白い冗談だ」

リンス
「周りが見えないようだな?

 私の策は成った」

 
 キュバインは味方の死体を見て向き直り唾を吐いた。


 リンスはその場を平然と去って行ったが、

 キュバインの投げ斧を叩き落とした両腕が震えている。


 (簡単には勝てそうも無い…)

 
 リンスは背後に生まれて初めての寒気を感じていた。

 キュバインもまた信頼する腹心達を失い、焦りを感じていた。
 
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