『華國ノ史』
 初戦から連勝続きの華國軍は煌皇軍の三将軍に苦戦を強いられる事になる。


 関所を果敢に攻める武将キュバイン軍は多くの防衛拠点を転戦しつつ戦う華國軍を武力で圧倒するが、

 常に最後の一手でリンスに勝ちを譲る事になる。


 大翼将軍ゼレイドはワイバーン騎兵を率い、華國軍後方を襲撃。

 補給線の断絶を目論む。


 初めの内は兵糧を失い窮地に陥った華國軍は山間部にチェーンと縄を巡らせる。


 更におとりの輸送部隊を用い襲撃しにやって来たゼレイドの部隊に矢の雨で抵抗を行った。


 ゼレイドはこの時、左足に矢を受け負傷するが奮戦を繰り返すのであった。


 無慈悲と呼び声相応しく、空より打ち放たれる矢は優れた指揮官の命を一瞬で奪い去っていった。


 魔導将軍レイナスの幻術は各地で混乱を呼び、

 華國軍の指揮系統を麻痺させる。


 彼が得意とする幻術は人の精神に働きかけ、

 多くの被害をもたらした。

 
 同士討ち、幻の軍勢、視覚を奪う濃霧と次々に惜しげもなく秘術を使うのであった。


 被害は一進一退を繰り返し、両軍は日に三度は戦いを行う。


 山間であった為、兵力差は影響が無かったものの、

 次第に疲労が蓄積し華國軍は渓谷関所半ばまで押し戻される。


 しかし、ここで起死回生の一手が決まる。


 華國第二王子トリート率いる山脈民族の王者、

 雪狼族が山肌を伝いレイナス将軍を奇襲。


 飛び交う大剣を防ぐ間もなくレイナスは一刀で両断される。


 幻術に特化したレイナスは接近戦の弱い事を自覚していたが、

 襲われた場所は到底奇襲など出来ないと思われる崖に挟まれた位置であった。


 打ち取ったのは雪狼族の若き戦士であった。


 彼は雪狼族の中でも珍しく黒い毛皮を身に付けていた。

 
 これを聞いたキュバインはレイナスの元へ駆けつける。

 
 多勢に無勢であった雪狼族は再度崖を駆け登り撤退に成功していた。

 
 キュバインは怒りに燃え挑発を行う。

 
 これに雪狼族の隊長が応え一騎討ちとなった。

 
 両者は互いに激しく打ち合ったが、最後に勝利したのはキュバインであった。

 
 雪狼族は最強を自負していた為に怒り狂ったが、

 同時にキュバインその強さに賛辞をおくったのであった。


 レイナスを討ち取った雪狼の若き戦士はこの時の功績でキュバインに破れた隊長の後釜に据わる。


 将軍を失ったばかりかレイナスの周りにいた煌皇軍の魔法使い部隊はこの時魔力を使いきっており、

 かなりの被害が出たのであった。


 これよりリンスは温存していた後方部隊を全線に投入する。

 
 細かな戦略と配置替え、数々の作戦と自らの出陣で華國軍は次第に渓谷で優位に立ち始めるのであった。


「雪積もる月」より始まり、

「雪溶ける月」の終盤まで続いた二月の間の戦闘の後。


 煌皇軍は関所の奪還を諦め後方に撤退を開始する。

 兵力この時、華國軍六千、

 対して煌皇軍七千。


 史上類を見ない戦死者を出したこの血も凍る戦いは二月に及び、

 一応の終息を迎えた。

 
 寒さと雪で死体は腐らず、辺りに散乱し、白い雪は血で赤く染め上げられた。

 
 これを人々は

 「赤雪の二月会戦」と呼んだ。 
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