『華國ノ史』
 水晶山まで軍を進めたボーワイルドはこの戦いを諦めそうになっていた。


 将軍フェネックを失い、軍を削られたのにも関わらずその報告は「全滅出来ず」と「援軍と合流される」であったからだ。

 
 更にいうと東の戦況が芳しくなく、フェネックと同様レイナス戦死の報を受けていた。


 これにより一刻も早く華國王都を目指し陥落させねばこの侵攻作戦は大敗を喫するであろうと考えていた為でもあった。

 
 しかし、どうもこの山に籠っている少数の部隊が気に食わない。

 
 開きすぎた兵力差にも関わらず、善戦し続け、今も尚厄介な戦力を取り込み続けている。


 王都に攻めるにせよ背後を突かれるか、補給線を絶たれる可能性が大きいからである。


 ここまでやられるとボーワイルドは認めるしか無かった。

 
 彼らの異常なまでの強さと、神に寵愛を受けているかの様に危機を脱する運を。


 眼前に広がる心奪われそうな山も危険な匂いしかしてこなかった。


 ここでこれ以上兵力を削がれればどちらにせよ王都は落ちない。


 そこでボーワイルドは様子を見る為に捕らえた自軍の脱走兵を、

 まるで実験ネズミの様に山へと進ませたのだった。

 
 普段であればこんな非情な手段は使わない男であったが、

 国の命運が掛かっている今では仕方がなかった。

 
 ボーワイルドは合理的であれば非人道的と非難されてもやむ無しと考え初めていたのだった。


 追い込んでいるはずが、どんどん追い込まれている。

 
 そんな状況にボーワイルドは疲れを感じていた。
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