『華國ノ史』
 徹底抗戦の四文字が華の街を染める。


 螺旋の坂道には幾つものバリケードが自主的に作られ、

 中心にある王城に続く階段は壊された。


 多くの弓と矢が急遽作られ、街中の油が城壁に集められた。


 投げつける為のレンガの倉庫は次々に崩され上階へと運ばれて行く。


 防火対策に等間隔で水が入ったバケツが並べられ、

 きれいな布やシーツも包帯にされていく。


 正門には大きな家に使われていた丸太が並べられ、

 家の扉は矢を防ぐ盾となった。


 場外には削られ尖らせた木の柵が並び、鍛冶屋では昼夜を問わず音が鳴り響いていた。


 王城の武器庫は解放され、錆びた武器ですら持ち出された。


 噂を聞きつけ続々と集まる様々な義勇兵を都の人間は盛大に歓迎した。


「偉大なる王は我々を見捨てず首を差し出すという。

 それなら、我々は家の全てを差し出そう。

 
 王は我々の為に命を投げる。

 では我々は敵に石を投げてやろう。

 
 王は逃げず、最後まで戦うという。

 我々を見捨てはしなかった。

 
 ならば、我々はどうするべきか。


 従順な我らは王を見捨てない!

 王の為に、國の為に。

 全てを。

 華は決して散る事は無い。


 王が誇りを見せたのならば、

 我々は意地を見せつけよう」


 吟遊詩人の歌に歌われる程の街の変わり様であった。


 華やかな都は一変して闘志むき出しの要塞へと変わっていったのだ。

 
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