『華國ノ史』
 華國の民は文字通り死にもの狂いで戦った。

 
 士気はどんなに訓練を積んだ戦士よりも高く、

 その忠誠心はあらゆる騎士をも唸らせる程に。


 迫り来る投石器に怯まず、ずんずん進む梯子車には火傷を気にせず油瓶を投げつけた。


 矢を受けようが、構わず石を落とし、女ですらスカートを捲り戦った。

 
 老人は若者を庇う様に死に兵となって立ちはだかり。

 
 若者達は老人を救うべく奮戦して見せた。

 
 普通の国では形式ばかりの宮廷騎士達はこの時こそが生まれた意義であるかの様に戦った。


 多くの血が流れた分、その分華國の民衆は気を掻き立てる。


 その思わぬ反撃はボーワイルドの巧みな攻城戦法をも上回った。


 投石器は全て正面門に向けて放たれたが、

 丸太で固められた扉はびくともしなかった。


 逃げ場を捨てた民に寄って門という門の前に障害物が組まれた為である。


 壁は削り落ちるが、王城の逞しい城壁は一向にその内側を覗かせる気配は無かった。


 薄くなった壁には崩された家が積まれ、補強されていった。

 
 地上から放たれる矢の威力は奮わず、逆には力の無い、

 意志のこもった矢と火で煌皇軍の被害は拡大するばかりであった。



 王都防衛戦 二日目


 同じく城壁周辺には火の油が注がれた。

 煌皇軍の必死の攻めも華國の物量に弾き返される。


 弓が尽きた変わりに、あらゆる物が壁下の煌皇軍を襲った。


 レンガ、石、鍋。


 王都西側、一番薄い城壁に集中してボーワイルドは投石器を集中させる。

 
 そして東側に被害を免れた梯子車を移動させた。

 
 これによって華國の兵力を二極化し、連携を奪おうとした。

 
 しかし、その策に立ちはだかる男がいた。

 
 偉大な魔法使いを幾人も育て上げた占星術士。

 
 軍事顧問にして副校長。

 
 セブンの師、

 クラッシュその人であった。
< 209 / 285 >

この作品をシェア

pagetop