『華國ノ史』
 ウルブスが剣を抜きキュバインに向かって行くとキュバインはそれに気付いた。

キュバイン
「ウルブス、

 フォン…ドレイク!

 第二次の亡霊が今さら!

 老いぼれが何しに出てきた?」


ウルブス
「黙れ…小僧」

 ウルブスには異様なまでの殺気がみなぎっている。

 それはキュバインですら汗を流す程の重みであった。


キュバイン
「覚えているぞ、この体の傷はほとんどお前がつけたもんだ。

 
 俺が唯一調べさせて貰った。

 今じゃ召し使いまがいなんだって?

 今、その借りを返してやりたいが名誉無き戦いに興味が無い。

 場違いだ。

 
 死んでいる男の命などいらん去れ!」


ウルブス
「三度は言わん。

 黙れ、そして馬を降りろ…相手にならん」


 ウルブスはキュバインを知っていた。

 馬上よりも地に降りた方が相手が強い事も。

 知った上での虚勢であった。


キュバイン
「…」

 キュバインもまたウルブスをよく知っていた。

 
 若かかりし頃、痛い目に会わされた男だ。

 
 知っているからこその虚勢。

 知っているからこその下馬であった。


ウルブス
「よしよし、

 聞き分けの良い坊やだ」


キュバイン
「殺す…殺す!殺す!殺す!」


 キュバインは自分が死にそうになるといつも繰り返す言葉を発していた。


 そう自分に言い聞かせ、恐怖を相手と共に飲み込むのだった。
< 221 / 285 >

この作品をシェア

pagetop