『華國ノ史』
 キュバインはある程度このウルブスの攻撃を予想していた。

 首刈り。

 そんな異名を持つドレイクの事だ。

 必ず最後は首を狙うと読んでいた。

 だが、キュバインは決定的なダメージを与えたウルブスに恐怖していた。

 
 汗を流すが顔色一つ、眉一つ動かさない老人を。

 
 どんな魔法使いも、大軍すら恐れぬ男がこの片腕の老人を恐れた。


ウルブス
「ふむ、これで最後か…

 相討ちとは情けない」

 
(勝つ事が前提なのか?戦場で?

 あり得ない。自分が知っている戦場に絶対は無い)

 
 ましてや、今の自分の武は最高潮であると自負していたキュバインは混乱していた。


(経験を重ねた老人は嫌いだ)

 
 自分の知らない力を持っている男に恐怖していたのだ。


 その男は戦いの最中にも関わらず背を向けた。


ウルブス
「…出来ればもっと成長を見たかった。

 守ってやるばかりではいけないのですが、

 どうも何とかして上げたくなってしまう。

 
 戦争が終わり、老いた私に安らぎも楽しみも、

 そして再度栄光も与えてくれた。

 今、恩を返しましょう」

 
 キュバインは一騎討ちの最中に背を向けられた怒り、

 本能的に感じた未知の力、強敵に対して背後をとるという全うな考えでウルブスを襲った。

 
 走るキュバイン。


ウルブス
「若い貴様はこれから積み重ねる物が多い。

 しかし私はその先にいる。

 積み重ねた物が多すぎる。
 
 年層の厚みが違う、

 奪わせない。

 これが…私の覚悟だ!」


 振り向き様にウルブスは魔力を暴走させる。


 全ての魔法を最大以上に引き上げ、ただ一点に意識を集中させた。


 代償として負荷に耐えきれなくなった老人の体は血を吹き出し、

 その目は輝きを失っていた。

 
 
 しかし、その口元は緩んでいる。


 キュバインは動かぬウルブスを避け、二三歩歩くと空を見上げた。

 
 彼の厚い鎧を一本の剣が貫いていた。
 

 それはドラゴニュートの賢者が、ウルブスの歳を考え、切るよりも一点を貫く方が技術はいるが腕力は要らぬだろうと考え託した物であった。

 
 それを知っていたウルブスはただ一点を貫く事だけを最後の時まで意識した。


 肉体の限界を越える魔力を従えられたのは、凄まじい精神力、意志の強さ。


キュバイン
「ボーワイルド様、すみません」

 そのまま男は膝を着きながら絶命した。

 
 それは、大陸一の剣士と言われた男と、

 今や大陸一であろうかと言われる男の決着であった。
 
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