『華國ノ史』
 煌皇軍はキュバインの突撃に合わせ後方部隊を一気に渓谷へと進ませる。


 これは戦略的に玉砕してもという覚悟でのリンス討伐戦であった。


 戦局では負ける、しかしリンスは必ず打ち倒す。


 リンスはそれほど煌皇国にとって脅威であった。


 何故ならば、ここで勝とうがリンスさえ生きていれば北は息を吹き替えしてしまうからである。

 
 後衛の華國側は正規兵で固められていたが戦力差に圧倒され、

 後方へとやむなく撤退。

 
 最前線であった見晴らしの高塔砦は完全に孤立。

 
 これを絶好の機会と考えた煌皇将軍ゼレイドはリンスを討つべく包囲網を整える。


 元より見晴らしの高塔砦を拠点に機動部隊で戦う事を前提にしていたリンスの策が裏目に出た。


 華國後方部隊は守備兵中心で固められていたので突破力に欠け、

 中々救援に向かうのが困難であった。

 
 それでもリンスを救おうと華國後方部隊が奮戦している頃、

 連絡を立たれたリンスは包囲に対し、籠城戦を開始するかに見えたが、

 正門を開け放つ。

 
 リンスは勇敢にも自分の部隊を少数率いて敵を撹乱し始めた。

 
 この時の彼は強かった。

 金の髪を血に染め、鹿の兜は雄々しく戦場を駆けた。

 
 彼の振るう独特な柄の長い斧は多くの隊長を砕き、

 馬もそれに答える様に敵を掻き分けた。

 
 彼の部下はリンス庇う様に戦い、馬から落ちて尚勇ましく戦い、

 声を上げてリンスを称えた。

 
 矢を腕と腹に受け、右膝を剣で砕かれ、

 脛を槍で切りつけられ、馬の右目が潰れてやっとリンスは元の砦に引き返し始めた。


 高塔砦正門では魔法使い達が最後の力を振り絞り、敵を払った。


 彼の後を着いていた部下はリンスが入門するのを見届けると踵を返し、

 敵を睨む。

 
 壮絶な戦闘の後もあり、怖じ気づいていた煌皇帝軍を笑った。

 
 そして忠実な王子の騎手達は当然の様に最後の突入を誇り高く敢行した。


 これには煌皇軍も狼狽し、被害が多数出た。


 王子の騎手達の奮闘もあり正門は再度閉められ、

 リンスは馬が倒れると同時に斧を落とし、部下の勇ましい声を背に受け、

 涙ながらに気絶するのであった。

 

 
 

 
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