『華國ノ史』
 リンスが目を覚ました頃には既に砦は陥落寸前であった。


 魔力の尽きた魔法使い達も必死で戦ったが、数が違い過ぎたのだ。


 騎士達は皆、誰一人も降伏する事を拒み、見晴らしの高塔へと籠った。


 砦の壁には幾つも梯子がかけられ、侵入した兵により正門は開け放たれていた。


 残るは高くそびえる塔のみとなっていた。

 
 多くの者が螺旋階段を登ってくる煌皇軍にすがり付き、行く手を阻もうとする。


 リンスは屋上に上がり、そこから遠くを見渡した。


 華國はここからでは見えない事は分かっていたが、

 彼はそちらへと目を向けていた。

華國兵
「下も時期に突破されます」

リンス
「すまんな、無能な男の為に」

華國兵
「そんな風に思う者は華國に一人もおりません。

 
 あなたと共に死ねるのは名誉であります」

 
 リンスは良い兵に恵まれ幸せだと思った。

 
 ここまで懸命に戦い抜いた価値は十分に感じた。


 それだけ敵に損害を与える事は出来た。


 こちらの国には未だ多くの戦士が控えている。


 後は託すのみ。

 
 ふと目をやると華國の軍がこの砦に向かっている。

 
 遠目でも分かる。

 銀色の旗。

華國兵
「弟君ですな、しかしここはもう…」

リンス
「トリート…、命令違反をしおって。

 王都を救い、この戦いに終止符を打ってくれる者は他にいまい。


 だが、兄思いのお前の為に、せめて最後まで勇ましくあろう」

 渓谷にはワイバーンの叫び声が木霊していた……。

< 229 / 285 >

この作品をシェア

pagetop