『華國ノ史』
 リンス達がまだ突撃を開始する前、トリートはキュバインを追っていた。

 
 しかし騎馬で少数のキュバインに追い付く事は出来そうも無かった。

 
 トリートが率いる軍には騎馬が少なかった為もあった。

 
 それ以上に兄リンスが気にかかった。

 
(少数では関所は抜けられまい、ましてや王都までは到底行くまい)

 
 そう考えたトリートの頭にはもうリンスに迫る煌皇の軍勢で一杯になっていた。


 キュバインか、兄の命かを天秤にかけるまでもなくトリートは前線に引き返す。

 
 急ぎ戻ったそこでは自軍が必死で敵の陣を破ろうと戦っていた。


トリート
「戦況は?見晴らしの高塔はどうなっている」


華國兵
「急に敵兵は総攻撃に出て来ました。

 今までに無い猛攻です!

 敵は後方の部隊も全て投入している様です。

 
 我らを通さん為だけに尽力しておる様で、被害など考えておらんようで恥ずかしながら苦戦しております。


 このままでは兄君が危のうございます」


トリート
「私が前線に出る。

 力を貸してはくれまいか?

 私には兄やそなたらの様な力が無いのだ」


 トリートの前にズイッと現れた男達は自分の背丈程の大剣を担いでいる。

 
 トリートが必死になって同盟を組んだ山脈勢力一の武力を誇る雪狼族であった。


 その隊長であった男は珍しい黒の雪黒狼のマントを身に付けていた。

 
 名は「レア」

 
 稀有な者の意であった。

 彼が背負う黒い毛皮がそれを語る。

 
 雪で真っ白な山肌に稀に生まれる黒い雪狼。

 
 目立つが故に生きづらく、生きづらいが故に残った者は強かった。


 それをも倒したレアは、雪狼族の英雄であった。


レア
「力を貸そう。

 こんな大きな戦いの場を提供してくれたあんたに今では感謝している。


 今こそ我らの神兵の勇気を試す時だ」

 
< 230 / 285 >

この作品をシェア

pagetop