『華國ノ史』
 トリートが救出に来る直前。

 リンスは目を覚まし、少数の兵士と共に高塔の屋上に立て込もっていた。


 階下からは抵抗の喧騒が聞こえる。


 しかしそれにも増して谷上には耳をつんざく、生き物の鳴き声が響いていた。


 流石の勇敢な華國親衛隊も恐怖を感じ、手に汗をかく。


 煌皇空軍「大翼の怪蛇」


 稀少で獰猛な生物ワイバーンを駆る騎士団であった。

 彼等は煌皇軍のエリート集団である。

 
 ドラゴンよりも知能が低いワイバーンを従わせるには力と知恵と勇気が必要だった、


 大空から敵を射抜くには、腕力と技術が必要になり、落ちれば死ぬという恐怖も付きまとう。


 その為彼等は腕っぷしが強く、命知らずで、戦闘技術にも焚けていた。


 更に、地形という摩擦を克服し、戦地から戦地へと飛び回り、戦況を読む為の頭も持っていた。


 高塔は上にゆくにつれ細くなる構造であったので、

 屋上はそこまで広いものではなかった。


 その周りをゆっくりとワイバーンと騎手が旋回し始める。

 
 それに合わせ華國軍はリンスを中心円陣を組み大盾を構え、覚悟を決めた。


「空飛ぶ蛇に乗るとは、煌皇は物好きな奴等だな。


 あんなに醜い物に乗るとは、騎士の誇りは持ち合わせていないようだ」


 こんな時まで冗談を言うリンスにつられ親衛隊も皆口々に敵を罵り笑った。


 それを聞いてか聞かずかワイバーンは奇声を発しスピードを上げて行く。


 共に大空を舞う煌皇五大将軍ゼレイドの合図と共にワイバーンの騎手達は弓を引いた。

 
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