『華國ノ史』
 ゼレイドはさながらワイバーン騎兵を指揮者の様に巧みに操った。


 上下から緩急を付けた弓は容赦なく華國の盾を叩き、

 隙間を縫って華國兵に突き刺さる。


 それでも親衛隊は苦痛に耐え、悲鳴を出す者はおらず、

 しっかりと敵の動きを観察し、ギリギリまで矢の軌道を見定めようとしていた。

 
 執拗な攻めに何人かが倒れたがしぶとく守る華國軍を見てゼレイドは最終手段に出た。


 合図を受けた一人の騎手はワイバーンを操り、

 旋回する輪から抜け出すと高塔屋上へと突撃する。


 その衝撃で屋上の低い防壁は崩され親衛隊も何人かが巻き込まれた。


 親衛隊を掻き分け、地を這う様に進むワイバーンに向かい駆け寄るリンス。


 ワイバーンの翼に付いた鋭い前爪がリンスの頭部を襲い兜の鹿角が片方折れ、

 リンスの体はグラリと傾いた。


 しかし、リンスは足を半歩踏み出し踏ん張った。

 
 止めに噛みつこうとするワイバーンの頭に凄まじい勢いでリンスのハルバードが降り下ろされ、

 少しの声と共にワイバーンは息耐えた。


 降りて来たワイバーンの騎手は槍を掲げ身構えるが一回転しながら振られたリンスの一撃は騎手を屋上の外へと弾き飛ばす。


 隊列が乱された屋上には矢が襲い、次々に華國軍は倒される。


 リンスも矢を受けたがもう一騎向かって来るワイバーンに向かい走る。

 
 タイミングを合わせ前方に転がり立ち上がり様に下顎に斧を斬り刺し、

 そのまま地面へと引き落とす。

 
 戸惑いながらも怒り、振り向いたワイバーンの目にはもうリンスの払った武器が迫っていた。


 首から地面に屈するワイバーンを尻目に騎手は剣を抜きリンスに飛び掛かる。


 リンスはこれを柄で受け、柄の尾で直ぐ様頭を強打した。

 
 朦朧とするワイバーンの騎手の頭上にはリンスの斧が天高くそびえ、

 屋上の地面を砕く勢いで降り下ろされる。


 手負いの金獅子は手の付けようがないまでの奮戦をみせ、

 鬼神の如く叫んだ。

 
 それは動かぬ自分の体への苛立ち、眼前に迫る一際大きいワイバーンへの威嚇であった。

 
 リンスの頭上を通り抜ける大きな影はゼレイドであった。


 リンスの咆哮は止み、ゼレイドは更に弓を引く。

 
 槍はリンスの右胸を貫き、彼は斧を手放し刺さった槍を握る。


 リンスは足をひきづり何かを求めて屋上中央へと歩き始めた。

 

 

 

 

 
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